
AGA(男性型脱毛症)という言葉も一般によく知られるようになり、その治療も以前に比べるとかなり身近なものになりました。
インターネットやSNSなどで経験談や個人同士の情報交換が活発になり、治療薬を安価に入手することも可能です。
しかし、手軽に治療を始められるようになった一方で『本当に正しい治療ができているか』という観点では必ずしも良い環境になったとは言えないかもしれません。
誤った方法で治療を進めると効果が出ないばかりか、副作用や健康被害を引き起こす危険性もあります。
本記事では、AGA治療において『やめた方がよいこと』『すべきではないこと』について解説します。
目次
医師の指導なしに治療を開始する
AGA治療は専門的な知識が必要であり、自己判断で治療を始めると望ましくない結果を招くことがあります。
AGA治療薬として使用されることの多いフィナステリドやミノキシジル、デュタステリドといった薬剤は、治療効果が望める一方で副作用や相互作用のリスクもあります。
効果を最大限に発揮しつつ、このようなリスクを低減するためには必ず医師の診察を受けるべきです。

フィナステリドの主な副作用
プロペシア®という製品名でよく知られるメジャーなAGA治療薬で、特に抜け毛の進行を抑える効果があります。
服用を開始してから数週間~数か月の間に 「初期脱毛」 が発生することがあります。これは古い髪が抜けて新しい髪に生え変わる過程ですが、一時的に抜け毛が増えるので不安を感じる人もいます。
良く知られている副作用として、性欲の減退、勃起不全、精子の減少などの性機能障害が挙げられます。
服用を中止してもこれらの症状が改善しない「ポストフィナステリド症候群(PFS)」を発症した事例も報告されています。
この他にも抑うつ症状や肝機能障害といった副作用が報告されていますが、発生率はいずれも1~2%程度です。
ミノキシジルの主な副作用
発毛を促進する薬剤として、フィナステリドと並んでAGA治療に用いられる薬剤です。
内服薬と外用薬があり、それぞれによって副作用が異なります。
外用薬の場合、頭皮のかゆみや発疹、皮膚炎などの副作用が報告されています。
外用薬よりも効果が高いと言われる内服薬は副作用リスクも高く、動悸やめまい、むくみなどの副作用を起こす可能性があります。
ミノキシジルはもともと高血圧の治療薬として使用されており、血管の拡張作用があります。
適切な用法・用量を守らなかった場合には、心臓への負担が大きくなったり急性低血圧を引き起こす危険性があります。
デュタステリドの主な副作用
グラクソ・スミスクライン株式会社が開発したザガーロ®という製品名で知られる抜け毛の進行を抑える薬剤です。
フィナステリドと同様に勃起不全や性欲減退、精液量の減少といった性機能障害や、乳房障害(女性化乳房、乳房の腫れや痛み)、肝機能障害などの副作用が報告されています。
副作用の発生頻度はフィナステリドと比較して同等かやや高いと言われています。
このような副作用が発生した場合、適切な対応を取る必要があります。
さらには持病や薬剤性アレルギーなどの個人の体質、抗生物質や鎮痛剤等の他の薬剤、アルコールとの同時摂取によるリスクも考慮しなければなりません。
そのため、医師の指導なしに治療を始めるのは避けるべきと言えるでしょう。
適切な診断を受けずに自己判断する
薄毛の原因となるのはAGA(男性型脱毛症)だけではありません。
日常生活におけるストレスや栄養の偏り、ホルモンバランスの乱れなどが原因となっている可能性もあります。
円形脱毛症や休止期脱毛症のような他の脱毛症との判別は難しく、抜け毛の本数をカウントしてみたり鏡や写真を撮って薄毛の進行を確認してみたりといったセルフチェックには限界があります。
専門医による適切な診断を受けずにAGAの治療を開始すると、自身の薄毛に対して適切な対策を講じることができず、無駄な時間や費用をかけてしまう恐れがあります。
だからといって「自分はAGAじゃないから大丈夫!」と思い込んでしまうのも危険。
AGAは進行性の疾患なので、治療の開始が遅くなればそれだけ症状も進行してしまいます。
早めに専門医を受診して、適切な診断を受けることが大切です。

AGAには明確な基準はありませんが、基本的な指針があります。
それは「髪の毛が抜ける場所」と「髪の毛の質の変化」です。
生え際や頭頂部の髪の毛が抜ける、毛髪が細く短くなっている場合、医師がAGAと診断することが多いです。
拡大鏡やダーモスコピーで頭皮をより詳しくチェックすることができるクリニックもあります。
また、毛髪のホルモン量を計測し、AGAのリスクがあるかどうかを見る検査もありますが、こちらはあくまでリスクを測定するだけの検査のため、ホルモン量が多いからといってAGAが絶対に起こるというわけではありません。
遺伝子検査(血液検査)で「アンドロゲンレセプター遺伝子」について検査する方法もあります。
この検査では男性ホルモンに対する感受性を予測し、AGAを発症しやすいかどうかを知ることができます。
明確な診断基準のないAGAですが、専門医は病院ならではの検査を行うことで得られる科学的根拠や豊富な臨床経験、最新の医療知識をもとに診断を下すことができます。
自己判断に頼らず、AGAクリニックに相談してみることをおすすめします。
AGA治療薬を個人輸入で購入する

個人輸入とは
AGAの治療費用を安価に抑えるために、治療薬を個人輸入する人もいます。
個人輸入とは、海外の製品を『個人で使用するために』インターネット等を利用して購入することです。
海外で販売されている薬を商用で輸入する場合には厚生労働省の承認が必要となりますが、個人使用が目的の場合には許可が必要ありません。
日本では入手できない、あるいは病院を受診して医師の処方を受けなければ手に入らないような薬でも、個人輸入を利用することで入手できる可能性があります。
近年は個人輸入の通販サイトも多く、海外のサプリメントや薬品を入手することは難しくなくなりました。
個人輸入の通販サイトで販売されている薬品は、日本で医師の処方を受けて入手するよりも価格が低いケースもあり、AGA治療薬を個人輸入で購入するという人も少なからずいらっしゃいます。
個人輸入のリスク
しかし、薬の個人輸入には大きなリスクが伴います。
偽造品の危険性
海外から個人輸入で送られてくる薬品の中には、正規品を模倣した偽造薬が含まれていることもあり、専門知識を持っていなければ本物か偽物かの判断は困難です。
成分が適切でなく期待していた効果が得られないだけでなく、有害な物質が混入している危険性もあります。
偽物の薬品の中には、見た目を本物に近づけるためにプリンター用のインクで色付けされていたというケースもあり、安心・安全とは程遠いと言えるでしょう。
品質管理の不透明性
日本国内に流通している薬は『薬機法』という法律によって成分や管理方法が厳しく定められています。
個人輸入によって入手できる薬品は、この医薬品管理基準を満たしていないことがあります。
販売している国の基準を満たしていたとしても、その国の人種や体質、生活文化などに合わせた基準となっていますので、日本の基準とは異なっていることが多いでしょう。
その国の人にとって安全であったとしても、日本人にとって安全性が確保されているとは言い切れません。
日本ではありえないような管理方法で保管されていることも珍しくないのです。
副作用や健康リスク
海外で販売されているAGA治療薬は、当然ながらパッケージも説明書も外国語で記載されています。
専門的な医療用語が並ぶ外国語の文書をきちんと読み、正しい用法・容量を守って服用することができるでしょうか?
前述のようにAGA治療薬には副作用のリスクがありますので、適切な用法・用量が分からないまま服用すると、副作用が強く出る可能性があります。
個人輸入で購入した薬で副作用が起こった場合、その薬が本物だったのか、どのような成分が含まれているのか等が分からなければ、医師に相談したとしても適切な対応が難しいことがあります。
また、個人輸入で入手した薬が原因で入院が必要なほどの重篤な副作用が出た場合でも、医薬品副作用被害救済制度が適用されず、自己責任となってしまうことも忘れてはいけません。
法的リスク
個人輸入の通販サイトで販売されているからといって、法的に問題がないとは限りません。
一部の薬は個人輸入が禁止されている場合があり、薬機法や関連する法律、輸出元の国の法律に抵触する可能性もあります。
場合によっては関税を課されることもあり、結局は日本国内のクリニックに処方されるのと大差ない金額になってしまうことも。
安全なAGA治療を行うためには、きちんと医療機関を受診して信頼できる治療薬を入手することが重要と言えるでしょう。
短期間で効果を求めすぎる
AGAの治療は開始してすぐに結果が見られるものではなく、少なくとも3ヵ月程度は時間がかかります。
服用する薬剤によっては一時的に脱毛が増える「初期脱毛」という症状が発生することもありますが焦って治療法を変更したり、自己判断で薬を増やしたりすると、副作用が強く出るなどの悪影響をおよぼす可能性があります。
治療法が自分に合っているのか、自分の症状がどのような状態なのかを専門知識を持った医師に診てもらいながら、根気強く治療を続けることが大切です。

生活習慣の改善を怠る
「科学的に効果のあるお薬を飲んでるから大丈夫」というわけではありません。
AGA治療を効果的に進めるためには、基本的な生活習慣の改善も欠かせません。
特に、以下のような習慣を見直すことが推奨されます。
栄養バランスのとれた食事
食事から摂取する栄養素は髪の毛の健康に密接に関わっています。
外食やインスタント食品が多くなると栄養バランスが偏り、AGA治療の効果を最大限に発揮する妨げとなってしまいます。
髪の主成分であるタンパク質をはじめ、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、亜鉛など髪の健康に必要となるさまざまな栄養素を摂取するために、日常的にバランスの良い食生活を心がけましょう。

ストレス管理
ストレスはホルモンバランスの乱れを引き起こし、髪の成長サイクルに良くない影響を及ぼすと言われています。
ストレスによって体内のコルチゾールというホルモンが増加すると、頭皮の血行が悪化して栄養の供給が滞ってしまいます。
十分な睡眠
睡眠時間が不足したり不規則になったりすると、体内のホルモンバランスが乱れコルチゾールの増加につながる可能性があります。
睡眠中に成長ホルモンの分泌が活発になり健やかな髪の成長が促進されますので、慢性的な睡眠不足や不規則な生活リズムを見直すことはAGA治療に欠かせません。
適度な運動
運動することによって血行が促進されると、髪の毛に必要な栄養や酸素が頭皮に適切に供給されます。
特にランニングやサイクリング、スイミングなどの有酸素運動は心臓と血管の健康を促進し、頭皮の血行も改善してくれます。
良好な血液循環は頭皮の健康を維持し、髪の成長をサポートしてくれますので、日常生活に運動習慣を取り入れると良いでしょう。

このように、AGA治療の効果を十分に発揮するためには日頃の生活習慣を見直すことが大切です。
さらに詳しい記事はこちら → 薄毛予防のための生活習慣の改善
また、AGA治療と並行してサプリメントの摂取や育毛シャンプーなどを使用する人も少なくありません。
サプリメントは不足しがちな栄養素を補ってくれますし、育毛シャンプーは頭皮環境の改善に役立ちます。
しかし、AGA治療においてはあくまでも補助的に活用するものであり、その効果に対して過剰に期待してはいけません。
また、含まれる成分によっては身体への負担が大きくなってしまう可能性もあるので、医師に相談した上で使用すると良いでしょう。
まとめ
AGAは一人ひとり症状や進行度合いも異なるため、それぞれに合った治療を行う必要があります。
そのためには、自己判断で薬の摂取を始めたり治療法を変更したりするのではなく、科学的根拠に基づく正しい知見と臨床経験のある専門医による診察を受けることが大切です。
AGA専門医は診察や検査を通して症状を正確に把握し、治療薬の処方をはじめとする適切な処置を施すことができます。
治療薬の副作用などのリスクを極力避け、安全で効果的なAGA治療を行いましょう。